2006年07月02日

07_04〔実名は、個の誠実を誘発するか〕


 一方、実名とは何を意味するのだろうか。果たして、実名こそが責任ある発言を保障するのだろうか。これもはなはだ疑わしい。
 実名は生活と不可分であり、もし発言することによって実生活に影響が出るならば、誰も発言などするはずはない。あるべき姿を目指すべきなのが社会のありようだが、誰も自分の生活への影響を恐れて率直な意見を述べないならば、世の中はあらぬ方向へ進んでしまう。
 私は、それをクレームマーケッティングと呼んでいる。ステークホルダーたちは、自らの利害のためにしか発言しない。これではクレーマーと形容される消費者と根本的に同じだ。関係者の中の良識の分子ではなく、クレーマーな分子たちだけで議論がすすめられる。学者といえども、国も財団などから資金を提供してもらっている限り、研究の途中で研究の無価値さが見つかったといっても、その自説を披露する自由はない。そのことで自分の家族は勿論、同僚たちの生活の安定にも影響を及ぼすならば、当然のことだろう。
 では、それでも発言をする人。実生活への影響も省みずに発言する人はどういう人なのだろうか。それは正義感がつよく、自分の生活を危うくすることも省みない人たちなのだろうか。
 確かにそういう立派な人もいるかもしれない。
 だが、私には、そういう人たちの多くは、捨てるもののない人、守るべき人のない人だと思えてならない。また、言うことでしか、自分のアイデンティティーが保てない人。言うことでしか、まわりの人たちを守っていけない人たちではないだろうか。
 そういう人たちの言説が、社会全体をあるべき方向にすすめる動因になるのだろうか。私には極めて疑問に思えてならない。

 百歩譲って、社会にとって、実名が責任と信頼をうるためのものだとしたら、それは個にとっては、まったくもって厄介なことになる。
 余程のことがない限り、日本の戸籍法では、ひとつの名前を一生名乗り続けなければならない。名前を使い続けていれば当然のように毀誉褒貶が生じる。私は、そういうものを乗り越えていくのが人生であるが、乗り越えられない事態に巻き込まれることもないとはいえない。
 個人や法人に破産制度があり、やり直しがきくように、情報化社会においても、傷ついた自分の名前というブランドをゼロからやり直す制度があってもいい。だが、それが実名では難しい。
 近代以前は、幼名があり、元服して名前を戴き、大家になると、襲名などをした。それは、それぞれの個が過去を清算して生まれ変わることだともいえる。そして、それがとても自然であった。
 足軽の日吉丸が、太閤秀吉になる。生き方が新しい名を生み出し、名が人を成長させる。出世魚ではないが、そういうことがあったと思う。
 勿論、一生同じ名前で呼ばれ続ける人たちもいた。それらは使用人であったり、身分のない人たち。彼らに共通するのは社会的な責任を果たすような立場や地位になかったことだ。
 四民平等の世の中では、社会的な責任から無縁な人など存在しない。9.11事件以降は、すべての人が自分の潔白を証明する義務も責任も負う。そういう時代が訪れている。

 我がご先祖の御当主たちは、代々同じ名前を名乗ってきた。
だが、明治以降、そういうものが、古臭く感じられたのか、または、古色蒼然たる権左衛門という名前が嫌だったのか、戸籍名を名乗るようになっていった。だが、トレーサビリティーが、実名至上主義の理由とするならば、高度情報化社会の実現により、トレーサビリティーは確保できるのだから、実名にこだわることが、時代遅れの考え方になっていると思う。だが、近代以降、トレーサビリティーの確保を第一の理由にして改名がほとんど不可能になっている−−−。

 少年隊が四十歳を過ぎても少年隊なのはかっこいいことかもしれぬが、卓球の愛ちゃんなどは、そろそろお年頃だし、福原選手や愛さんと呼んであげないと失礼だと思う。何しろ彼女は、芸能人ではなく、こちらの側が知っているとしても、知り合いではないのだから、なれなれしくするのはどうかと思う。とはいえ、広告活動をして活動費を稼いでいる彼女だから、そうもいえないのが現実でもある。
 要は、トレーサビリティーを確保すればよいのであって、実名である必要はない。トレーサビリティーの確保を主な理由として、実名主義を貫くのは、旧態然としている。西洋に見習った制度なのかもしれないが、どうやら日本人の社会風土には合致しないような気がする。

posted by sponta at 06:28| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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